○ケンプラッツ・連載 〜 道路整備に税金は要らない(4) 〜
《借金を先送りするPFI》
まずは、連載の第3回までに書いたことを整理しておこう。
・道路は「官独占」、その根拠は「道路法」。道路法の精神は「道路は無償提供」。だから、道路は「税金」と「借金」でつくる。
・借金が返せないと税金で返済する。つまり、出し手(国民)の知らないところで国民の貯蓄が道路に使われている。
・道路論議は「必要かムダか」だけでは不十分。事業の非効率を追及する経営論や「受益と負担の最適化」からみた資金調達の非効率も議論すべし。
・日本のインフラは高齢化。維持管理費をコスト削減だけで乗り切るのはもはや限界だ。新たな収入源を確保すべきである。「税金や借金以外の資金調達」が必要。
今回からは、地方のインフラ整備における民間資金の活用について展望していく。
地方自治体がインフラ整備を行う場合、民間から資金を調達する手法は「地方債」と「PFI(民間資金を活用した社会資本整備)」くらい。きわめて限定的である。
地方債とは自治体の借金であり、起債が増えると実質公債費比率(*1)が上がり、行き過ぎると起債制限に陥る。同意債と協議債(*2)に二分された昨今、これまで通りの起債は難しくなる。
一方、日本には道路PFIの実績はない。また、『日本版』PFIは、英国などのPFIと違い、建設費の割賦払いを認めた「民間資金を使う価値のない日本型PFI事業」として固まりつつある。“借金の先送り”である。
*1 実質公債費比率:公債費(地方債の元利償還元金)に充てられる一般財源の額が、標準財政規模に対してどの程度の割合を占めているかを表す比率。地方債発行の適量を判断する指標になる。
*2 同意債と協議債:2006年度から地方債は許可制度から協議制度に移行。総務大臣または都道府県知事と協議の結果、同意を得られれば公的資金を借りられるようになった。これを同意債と呼ぶ。一方、地方議会にあらかじめ報告し、同意を得ないで発行する地方債を協議債または不同意債という。許可制では許可がなければ起債できなかったが、協議制の下では同意が得られなくても発行できる。
1.高い地方債依存度
総務省によれば、地方財源の不足額は2008年度で約5.2兆円。そのうち11.5%を地方債に依存している。自治体の借入金残高は、2008年度末で197兆円、その約7割の137兆円は地方債残高である(図4−1参照)。
図4-1 地方の借入金額高
このため、自治体の財政構造は硬直化。1996年度と2006年度を比較すると、経常収支比率(*3)は84.8%から91.4%へ、公債費負担比率は14.0%から19.3%へ、起債制限比率は10.2%から11.6%へと、いずれも悪化している。
資金引受先は、政府資金や公営企業金融公庫資金、そして民間などの資金に大別できる。民間などの資金には、市場公募による資金と銀行などが引き受ける資金の二つがある。総務省の「平成20年度地方債計画」によれば、2008度の地方債の発行額は約12兆5000億円。そのうちの約63%に当たる7兆9000億円が民間資金である。
*3 経常収支比率:自治体の財政の弾力性を示す指標。例えばこの比率が低いほど、建設事業などの臨時的経費に充てられる一般財源が豊かで、財政構造が弾力性に富んでいることを示す。
2.ミニ公募債は「志ある投資」?
なかでも、地方債計画に占める市場公募資金(市場公募債)の比率は年々高まっている。全国型市場公募地方債(*4)の発行団体も2007年度時点で42団体に増えている。市場公募債にはこの全国型以外にも、次の2種類があるなお、以下の数字は(財)地方債協会ホームページから抜粋した。
(1)共同発行市場公募地方債(共同債)
発行コストを低減するために発行単位を大型化し、2003年度から導入。2006年度時点で28団体が参加しており、発行規模は1兆3,240億円。
(2)住民参加型市場公募地方債(ミニ公募債)
住民などの個人を対象にして公募することで、資金調達の多様化を図ったのがミニ公募債。併せて、住民に行政への参加意識を高めてもらうねらいもある。スタートした2001年度は、群馬県が発行した「愛県債」の10億円だけだったが、2006年度は3,513億円にまで増えている。
日経コンストラクション2006年1月13日号に佐賀県が発行したミニ公募債の記事が掲載されている。同県が購入者を対象にアンケート調査したところ、「県の公共事業に協力したい」を購入動機に挙げた人が36%だったという。公募債は、住民による“志ある投資”かもしれない。
新たな地方債を開発する動きもある。静岡県と川崎市が2007年、期間が20年の超長期債を発行したほか、金融派生商品を活用した「仕組債」と呼ぶ地方債の発行を計画している自治体もある。
*4 全国型市場公募地方債:自治体が証券会社や銀行などを引受先として、不特定かつ多数の人に購入を募る債権の1つ。全国規模で資金調達するのが「全国型」。地域住民を主な対象とする「住民参加型」もある。
3.実現しなかった道路PFI
自治体PFI事業推進センターによれば、2008年1月24日時点のPFI事業の実績は国・と自治体合わせて328件。事業方式別では、BTO(Build Transfer Operate)方式(*5)が64%。これまで道路PFIの実績はないが、表4−1のように国や自治体が検討した経緯が過去6件ある。
*5 BTO方式:民間事業者が施設を建設し、施設が完成した直後に施設の管理者などに所有権を移転。民間事業者が維持管理や運営を行う事業方式。
表4-1 道路や橋のPFI事業にかかわる全国の事例
最新の事例としては、国土交通省近畿地方整備局が2006年度に検討した淀川左岸線延伸部整備事業がある。建設から運営までを民間事業者に任せるもので、実現すれば国内初の道路PFIとなる予定だった。
計画ではBTO方式を想定。有料道路事業や沿道施設の運営などで得られる収益が建設費の財源だった。想定整備費用は3,000億〜4,000億円、外資や大手建設会社の参画が期待されていた。
淀川左岸線の事業の件で非公式に聞いた大阪府のコメントでは、有料道路計画だけでは資金的に困難。さらに、多くが大阪市内を縦断するので都市計画手続きは大阪市が主体になることから、有料道路事業と街路事業、道路事業の合併施工の可能性もあるようだ。
民間発意による道路PFIでは、2005年9月29日に日本PFI協会が提言した「民間発案による桜島架橋とPFI」がある。同提案は、設計から施工、維持管理までを民間に一括発注、保険を活用してリスクを民間に移転するなどの特徴をもつ。
政府の無利子貸付金を活用するために地方道路公社を道路管理者とし、BTO方式を想定。民間事業者は公社からサービス対価を得る。事業期間は政府貸付条件による償還期間に合わせて30年としている。
このほか、2002年5月24日の「民間資金等活用事業推進委員会第22回合同部会議事概要」で、国土交通省が道路PFIの検討状況として「道路局が自治体に対して『PFIによる有料道路実施方針』のひな形案を示し、案件の提案を働きかけた」と回答している。
この案は、正式には「有料道路事業における実施方針雛型」という。道路特別措置法第7条の12に基づく地方道路公社の有料道路事業を対象とし、PFI法第5条の規定に基づくPFI事業の実施を定めている。事業方式はBTO、期間は30年、道路管理者は地方道路公社である。
3.「民間資金を使う価値のない」日本版PFI
英国では、公共調達に割賦払いを利用することはVFM(Value For Money=費用対効果)を悪化させるので禁止されている。PFIの補助金であるPFIクレジットが受け取れなくなるので、PFIとして成立しない。PFI事業を計画する場合は、FRS5という会計報告基準によって民間へのリスク移転検証が行われる。十分なリスク移転ありと認定されれば、当該施設は民間資産とみなされ、PFI事業として認められる。
そうでない場合には、割賦払いなどのリース支払に適用されるSSAP21という会計規定で処理され、PFIとしては認定されない。つまり、英国のPFIは割賦払いを認めない官から民への「リスク移転型」である。
一方、日本のPFIは、建設と運営を分けて建設費を割賦払いで支払うものが多い。先述した道路PFIの検討事例もすべてそうである。民間資金を使った割賦払いは公債に比べ金利メリットがなく、VFMは悪化する。しかも、施設の所有が官であるならば、民間へのリスク移転は実現しにくい。
「日本版」PFIは英国などのPFIと違い、建設費の割賦払いを認めた「民間資金を使う価値のない日本型PFI事業」として固まりつつある。
にもかかわらず、日本が割賦払いのPFIを利用するのは、初年度に一般財源から支出せざるをえない整備費を延べ払いにするためだ。つまり、日本版PFIは「借金の先送り」である。
出典:『ケンプラッツ』 2008年7月8日掲載 「道路整備に税金はいらない(4)」
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/const/column/20080707/524217/
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