時代の風




○ケンプラッツ連載 〜 到来!コンセッション方式(1) 〜

《復興きっかけに有料道路を変える》
 東日本大震災に必要な復興予算の規模は20兆円とも30兆円とも報道されている。阪神・淡路大震災の際には、インフラの直接被害額10兆円を上回る投資を実現するのに3年かかった。東日本大震災の震災対策を盛り込んだ2011(平成23)年度第一次補正予算で4兆円規模の財源が確保されたが、復興予算規模を30兆円と仮定すれば、さらに26兆円程度の財源を捻出する必要がある。
 政府・民主党では歳出見直しや政府保有株の売却、あるいは民間資金で社会資本を整備するPPP(Public Private Partnership)/PFI(Private Finance Initiative)の活用を十分検討することなく、増税論議が先行している。東日本大震災が発生した3月11日と同じ日にPFI法改正案を閣議決定したにもかかわらず、検討した形跡はない。

1.復旧・復興の財源はどうやっても不足する!?
 高速道路関係では2011年4月6日、東日本大震災の復旧・復興財源に充てるため、高速道路の上限料金制(休日1000円)を廃止する方針が固まった。今後3年間で政府が高速道路の割引財源として確保している約2兆円のうち、約4000億円を占める。無料化社会実験の中止による約1000億円を加え、合計で約5000億円を復旧・復興財源として捻出する考えだ。
 これに代わり、被災地支援策として東北・北関東の高速道路を一定期間、無料化する検討に入った。その2011年度分の経費として約1600億円を見込み、高速道路関連で捻出する復旧・復興財源である約5000億円の一部を充てることが想定されている。なお、東北方面高速道路無料化の財源については、4月23日の閣議後の会見で大畠国交相は利便増進事業費から捻出することも一つの考え方であるとしている。
 いずれにせよ、財源不足は否めない。一方で、復旧・復興は待ったなしである。今は、資金調達とともに、新たな財源の確保が急務である。復興債等の債券発行は、資金調達の手法ではあるが、新たな財源を生むものではない。いずれ返済しなければならない借金である。一部の市場関係者が指摘するとおり、大規模な債券の発行は、国債償還が不可能になる時期を早めることになりかねない。とはいえ、増税には抵抗感も強い。

2.有効打開策は国交省成長戦略の中にある
 4月20日、民間資金を活用した社会資本整備(PFI)の促進を目指すPFI法改正案が参院本会議で可決した。公共サービスの事業運営権を民間に付与し、経営を委託する新方式(コンセッション方式)を導入する内容が含まれている。
 社会資本整備における新たな財源を確保するには、国土交通省成長戦略会議が2010年5月17日に策定した「国土交通省成長戦略」(4.2.インフラ整備や維持管理への民間資金・ノウハウの活用(PPP/PFIなど))が、以下に示した有効策を既に提言している。
・インフラファンドの創成
 PPP/PFI 事業を資金面で補完する官民連携の大規模インフラファンドの組成により、インフラ投資への支援や信用補完を実施する
・コンセッション方式によるPPP/PFI の実行
 民間の創意工夫を最大限に引き出して社会資本の新規投資や維持管理を実施するため、施設の所有権を移転せず、民間事業者にインフラの事業運営や開発に関する権利を長期間にわたって付与するコンセッション方式を導入する
 大震災の影響により、ますます厳しい財政状況が予測される中では、民間資金も活用して必要な財源を確保し、復旧・復興のための新規投資や維持更新を行うことが必要不可欠である。例えば、復興予算は東北・北関東に優先的に投入し、被災地以外の地域で既成予算が不足してくる事業に対して上記の打開策を講じることなどが有効になろう。このための方法論として、PPP/PFI制度を充実し、民間のノウハウと経営努力によって事業者のリターンが見込めるスキームを確立し、それをもって利用者の低負担・高利便性を実現すべきである。

3.有料道路事業とコンセッション
 改正PFI法では、コンセッション事業の可能性やそれに伴う公物管理者制度の改正等が盛り込まれた。ただし、有料道路事業への導入については、根拠法である道路整備特別措置法や料金政策との整合・見直しのために時間がかかるとされている。しかし、状況は一変した。震災によって一層の財源不足が予測される現在、従来の制度下では適用がなかった有料道路事業についても、法整備や仕組みづくりを急ぐべきではないだろうか。
 ここで改めて、国内の高速道路・有料道路の現状を簡単に整理しておく。日本の高速道路は、1952年(昭和27年)に制定された道路整備特別措置法に基づく有料道路として整備されてきた。償還主義とプール制に支えられた通行料金制度は、現在では新たな施策が行われ、公共料金としての位置づけやあり方を再考すべき時期でもある。「レファレンス平成21年10月号」に記載された「高速道路の通行料金制度」でも指摘されているように、無料開放原則と償還主義のあり方、高速道路の社会資本としての性格、受益と負担の関係、環境問題、諸外国の制度との比較などを十分に行い、国民の意向を反映した施策を打ち出すことが大切である。
 高速自動車国道についてはすでに、道路を保有する日本高速道路保有・債務返済機構と、有料道路事業を運営する高速道路会社(NEXCO)との間に、形のうえではコンセッション契約が成立していると見なすこともできる。むろん、高速道路会社の株主が国であるため、実質的に"官官連携のコンセッション"であり、リスクの考え方、事業運営のインセンティブなどもあいまいである。
 それ以外の有料道路(道路公社の有料道路を含む)についても、道路整備の選択肢を広げるために、コンセッション導入の可能性をあらためて提起しておきたい。
@既設の有料道路をコンセッション化できないか
A新設道路にコンセッション契約が妥当な場合がある
B上記の実現には、国・地方自治体に限定されている道路管理者を民間開放することが必須である
 欧米先進国では、有料道路事業においてPPP/PFI制度が急成長を遂げており、コンセッション方式や長期リース方式、DBFO(Design Build Finance Operate)方式が浸透している。日本の有料道路関連事業者や投資家の活動を拡大させるためにも、国内で民間による有料道路コンセッション事業の市場を整備したいところである。
 本連載では、有料道路コンセッション事業に関わる世界の潮流を俯瞰し、日本へのコンセッション道路導入の可能性を検討する。と同時に、コンセッション道路事業を「私有公益事業」として位置づけ、適正な料金制度や事業の収益性など、公益保護の観点から遵守すべきいくつかの課題と解決策を提示する。
 なお、本連載でPPP、 PFI、コンセッションの定義は下記とする(詳しくは連載の第2回で説明する)。
◇ PPP:官民連携、または公民連携。民間の技術力や資金力、場合によっては経営力を活用し、公共セクターと民間がリスクを分担して連携しながら、公共施設整備、公共サービスを持続的に提供する手法
◇ PFI:民間資金を活用した社会資本整備。公共セクターが発注者となって、民間の技術力、資金力を活用し、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・サービス運営を行う事業手法 
◇ コンセッション:公共セクターに施設の所有権を残したまま、一定期間、施設整備や公共サービス提供等の事業運営権を付与された民間が自ら資金を調達し、利用者料金を主たる収入源にリスクを負いながら事業を運営していく手法


出典:『ケンプラッツ』 2011年5月23日掲載 「到来!コンセッション方式(1)」
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20110519/547507/







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